A社は得意先にサービスを提供しますが、そのサービスをA社の指図により大手商社(B社)が提供することになりました。そこで、「収益認識に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第30 号)の本人と代理人の区分が問題となりました。
監査法人の担当者からA社経理部に、A社は在庫リスクを負わないこと、付加価値を加えないこと、自由に供給業者を選択する裁量がないこと、製品やサービスの仕様の決定に加わっていないこと、物的損失リスクを負担しないことなどから、純額で収益計上すべきではないかとの質問がありました。
これに対して、A社は「収益認識に関する会計基準の適用指針」〔設例18〕に基づいて検討したところ、以下のとおり顧客との約束がサービスを本人(A社)が自ら提供する履行義務であると判断されるので、対価の総額を収益として認識するとしました。
(1)A社と得意先は、サービスの範囲について合意し、価格を交渉します。A社は、契約条件に従ったサービスの提供を確保することに
責任を負い、合意した価格に基づき顧客に請求します。
(2)得意先に対するサービスは、A社の指図によりB社が提供します。A社は、仮に得意先がA社に支払を行うことができない場合で
あっても、B社に対する支払義務があります。
(3)A社は、自らが本人又は代理人に該当するのかを判断するために、サービスが得意先に提供される前に自らがサービスを支配してい
るのかどうかを判定しました。A社は、次の①から③を踏まえ、自らは当該取引における本人に該当すると判断しました。
① A社が得意先に提供するサービスは、得意先と契約したサービスであり、他のサービスの提供を得意先に約束していません。A社は、
当該権利の使用を指図する能力及び当該権利からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力を有します。例えば、A社は、B社に
対し、サービスの提供先を指図できます。得意先は、A社と合意していないサービスの履行をB社に指図する能力を有していません。
したがって、A社がB社から獲得するサービスに対する権利は、得意先との契約における特定のサービスではありません。
② A社は、当該サービスが得意先に提供される前に自らがそれを支配しています。A社がサービスの権利に対する支配を獲得するのは、
得意先との契約締結後ですが、当該サービスが得意先に提供される前です。A社とB社との契約条件により、A社は、当該サービスを
A社に代わってB社が提供するように指図する能力を有しています。
③ A社は、当該サービスが得意先に提供される前にそれを支配していると結論付ける際に、次も考慮しました。
ア A社は、サービスを提供する約束の履行に主たる責任を有しています。A社は、得意先に約束したサービスを提供するためにB社を利
用しますが、B社が得意先のために履行したサービスに対する責任を負うのはA社です。
イ A社は、得意先へのサービスの価格の設定に裁量権を有しています。