令和7年5月16日、「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案」を第217回通常国会に提出し、衆議院で修正のうえ、6月13日に成立しました。
この法律は、社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化を図る観点から、働き方や男女の差等に中立的で、ライフスタイルや家族構成の多様化を踏まえた年金制度を構築するとともに、所得再配分の強化や私的年金制度の拡充等により、高齢期における生活の安定を図るためのものです。
改正の概要としては主に以下の6つが挙げられています。
1.社会保険の加入対象の拡大
2.在職老齢年金制度
3.遺族年金制度
4.厚生年金等の標準報酬月額の上限の段階的引上げ
5.私的年金制度
6.将来の基礎年金の給付水準の底上げ
今回はその中から、社会保険の加入対象の拡大について一部ご紹介します。
◆現行の社会保険の加入対象
厚生労働省ホームページ「社会保険の加入対象の拡大について」より
社会保険の加入は、適用事業所に使用され、1週間の所定労働時間及び1ヶ月の所定労働日数が正社員の4分の3以上である場合に必要となります。
※厚生年金保険は70歳まで、健康保険は75歳まで
※他に要件を満たせば個人で任意加入することもできます。また、役員は加入要件が異なります。
従業員(厚生年金被保険者数)が51人以上の企業等は特定適用事業所に該当し、上の加入要件以外にも、下の要件を満たす場合は短時間労働者として社会保険の加入が必要となります。
厚生労働省ホームページ「社会保険の加入対象の拡大について」より
◆社会保険加入拡大のポイント
今回の加入拡大のポイントは、以下の3つです。
①短時間労働者の企業規模要件を縮小・撤廃
②短時間労働者の賃金要件を撤廃
③個人事業所の適用対象を拡大
① 今回の改正により、企業規模要件を縮小・撤廃し、②の賃金要件の撤廃もあわせて、短時間労働者が週20時間以上働けば、働く企業の規模にかかわらず、社会保険に加入するようになります。
改正の時期は、10年かけて段階的に縮小・撤廃することとしており、勤め先の規模によって変わります。
企業規模※ |
施行時期 |
51人以上 |
2024年10月(施行済) |
36人以上 |
2027年10月 |
21人以上 |
2029年10月 |
11人以上 |
2032年10月 |
10人以下 |
2035年10月 |
※厚生年金保険被保険者数
② いわゆる「年収106万円の壁」として意識されていた、月額8.8万円以上の要件を撤廃します。これにより、年収106万円の壁を意識せず、自分のライフスタイルに合わせて働き方を選びやすくなります。
撤廃の時期は、法律の公布から3年以内で、全国の最低賃金が1,016円以上となることを見極めて判断します(最低賃金1,016円以上の地域で週20時間以上働くと、年額換算で約106万円となります。)。
③ 現在、個人事業所のうち、常時5人以上の者を使用する法定17業種(※)の事業所は、社会保険に必ず加入することとされています。
今回の改正では、法定17業種に限らず、常時5人以上の者を使用する全業種の事業所を適用対象とするよう拡大します。
ただし、2029年10月の施行時点で既に存在している事業所は当分の間、対象外です。
※①物の製造、②土木・建設、③鉱物採掘、④電気、⑤運送、⑥貨物積卸、⑦焼却・清掃、⑧物の販売、⑨金融・保険、⑩保管・賃貸、⑪媒介周旋、⑫集金、⑬教育・研究、⑭医療、⑮通信・報道、⑯社会福祉、⑰弁護士・税理士・社会保険労務士等の法律・会計事務を取り扱う士業
厚生労働省ホームページ「社会保険の加入対象の拡大について」より
特定適用事業所の企業規模要件に関しては、段階的に数年毎に人数が減少していくこととなりますので、特に今後注意が必要です。
厚生労働省ホームページ
「年金制度改正法が成立しました」
こちら
「社会保険の加入対象の拡大について」
こちら