厚生労働省は、健康保険・厚生年金保険(以下「社会保険」という)のいわゆる年収の壁問題への当面の対応策として、支援強化パッケージを公表しました。今回は、年収の壁問題及び支援強化パッケージについてご紹介します。
【年収の壁とは】
社会保険においては、会社員の配偶者で一定の収入がない方は、被扶養者(第3号被保険者)として、保険料を負担していません。
こうした方の収入が一定額を超えた場合、ご自身が社会保険に加入する必要が生じる、又は、被扶養者の収入要件を満たせず、被扶養者から外れ、ご自身で国民年金・国民健康保険等へ加入する必要が生じます。
この収入基準について、年収の壁と呼ばれています。
◆年収106万円の壁
社会保険の特定適用事業所(厚生年金被保険者数101人以上の適用事業所)では、所定内賃金が月8.8万円以上、週所定労働時間が20時間以上等の条件を満たすと、社会保険の短時間労働者として社会保険に加入する必要があります。
所定内賃金月8.8万円を年収に換算すると106万円(月8.8万円×12ヶ月)程となることから、年収106万円の壁と呼ばれています。
※所定内賃金 月8.8万円には、時間外手当や家族手当、通勤手当、賞与等は除かれます。
※特定適用事業所以外の事業所では、現時点では年収106万円の壁については意識する必要はありません。ただし、令和6年10月からは、厚生年金被保険者数51人以上の適用事業所が特定適用事業所となることとされています。
◆年収130万円の壁
社会保険の被扶養者の認定基準の一つに、年収130万円未満(60歳以上又は障害者の場合は年収180万円未満)であることがあり、年収130万円以上となると被扶養者から外れることとなります。
※こちらの年収130万円には、時間外手当や家族手当、通勤手当、賞与等も含まれます。
「年収106万円の壁」、「年収130万円の壁」で年収に含まれる手当等に違いがありますので注意が必要です。
【年収の壁・支援強化パッケージ】
人手不足への対応が急務となる中で、短時間労働者が「年収の壁」を意識せず働くことができる環境づくりを支援するため、当面の対応として下記施策(支援強化パッケージ)に取り組むこととし、早急に開始することとしています。
◆年収106万円の壁への対応
106万円の壁対策では、既存のキャリアアップ助成金に、新コースとなる「社会保険適用時処遇改善コース」を創設。
雇用する有期雇用労働者等が新たに社会保険の適用を受ける場合、一定の措置(収入を増加させるなど)を講じる事業主を支援することとなりました。
※「社会保険適用時処遇改善コース」は2026年3月31日までの暫定措置で創設されます
支援メニューには、賃上げや、一時的な手当の支給などにより収入増を図る事業主向けの「手当等支給メニュー」と、労働時間の延長と基本給の引上げを組み合わせて収入増につなげる事業主を対象とする「労働時間延長メニュー」の2種類を用意。
両メニューを併用できるケースも設定しており、助成額は企業規模による差を設け、大企業は中小企業の75%となります。
手当等支給メニューは、賃上げなどの取組みを開始してから原則3年間で最大50万円(中小企業)を助成するものです。
1年目は、賃上げ(基本給や賞与アップ)または一時的な手当支給により賃金15%以上相当を労働者に追加支給した場合に、20万円を助成。
2年目も同様の取組みに対して20万円を助成しますが、3年目に基本給引上げまたは労働時間延長により賃金の18%相当を引き上げたことが確認できない場合には、半額の10万円しか支給しないこととなっています。
3年目は、手当の支給で収入をアップさせる場合は対象にならず、基本給の引上げか、労働時間延長によって18%以上相当分を増額させていれば、10万円を助成することになります。
要件 | 1人当たり助成額 | |
中小企業事業主 | 中小企業事業主以外 | |
①(1年目)15%以上賃金を増額させる措置を1年間継続すること | 20万円 | 15万円 |
②(2年目)15%以上賃金を増額させる措置をさらに1年間継続し、3年目以降③の取り組みを行うことが書類等により確認できること | 20万円 | 15万円 |
③(3年目)18%以上賃金を増額させる措置を継続すること | 10万円 | 7万5,000円 |
1~2年目の一時的な手当の支給に関しては、標準報酬月額の算定対象に含まない「社会保険適用促進手当」制度を導入し、保険適用によって新たに発生した本人負担分の保険料相当額を上限に、支給した手当を算定に反映させません。
これは、社会保険の標準報酬月額が10.4万円以下の者が対象となります。
労働時間延長メニューは、所定労働時間を4時間以上延長させる企業などが対象で、中小企業の助成額は1人当たり30万円です。
「労働時間を3~4時間未満伸ばしたうえで5%以上賃上げ」、「2~3時間未満伸ばしたうえで10%以上賃上げ」などに対しても支給されます。
ここでご注意いただきたいのが、あくまでキャリアアップ助成金を申請しないと、金銭的な支援はなされないということです。
◆年収130万円の壁への対応
短時間労働者が、繁忙期に労働時間を延ばす等により、収入が一時的に上がることで年収130万円以上となったとしても、事業主がその旨を証明することで、引き続き被扶養者認定が可能となる仕組みを作るとしています。
具体的には、毎年秋頃に行われる被扶養者の収入確認時に、該当者については「被扶養者の収入確認に当たっての一時的な収入変動に係る事業主の証明書」を添付いただくこととなります。
証明書の様式は厚生労働省のホームページで公開されています。
なお、今回の年収130万円の壁への対応について、厚生労働省からQ&Aが出ておりますので、一部ご紹介します。
Q:どのような収入の増加が対象となりますか?
A:職場の人手不足に対応するため、働く時間を延ばしたことなどによる一時的な収入変動が対象となります。
Q:いつからの収入が対象となりますか?
A:今後行われる被扶養者の収入確認で確認の対象となる過去の収入が対象となります。詳しくはご加入の健康保険組合等にご確認ください。
厚生労働省ホームページ
「年収の壁・支援強化パッケージについて」
こちら
厚生労働省ホームページ
被扶養者の収入確認に当たっての「一時的な収入変動」に係る事業主の証明書
こちら